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観葉植物として不動の人気を誇るパキラですが、「縁起が良い(発財樹)」とされ、育てやすい反面、大きくなりすぎて困るという声も聞かれます。そんなパキラですが、実は日本の伝統文化である「盆栽」として、コンパクトに、そして芸術的に楽しむことができるのをご存知でしょうか。
この記事では、パキラの盆栽という新しい楽しみ方について、魅力的な仕立て方から、日々の基本的な育て方まで、初心者の方にも分かりやすく徹底的に解説します。
盆栽に必要な材料の選び方、幹の曲げ方のコツ、さらには100均の苗を活用したミニ盆栽の作り方も、手順を追って紹介します。また、剪定した枝を無駄にしない挿し木の方法や、土を使わずに清潔に楽しめる水耕栽培のアイデア、苔や石を使った寄せ植えのテクニックにも触れていきます。
難しいイメージのある盆栽鉢での水やりや、パキラの苦手な冬越しの重要なポイントも押さえ、どなたでも安心して挑戦できるよう具体的にサポートします。
ポイント
- パキラを盆栽風に仕立てる具体的な手順が分かる
- 100均の苗からミニ盆栽を作る方法が学べる
- 盆栽鉢での水やりや冬越しなど管理のコツが分かる
- 挿し木や水耕栽培での楽しみ方も知れる
コンテンツ
おしゃれなパキラ盆栽の作り方
参考
- 盆栽作りに必要な材料と道具
- 基本的なパキラの仕立て方
- 針金を使った幹の曲げ方のコツ
- 100均パキラでミニ盆栽に挑戦
- 苔や石を使った寄せ植えのアイデア
盆栽作りに必要な材料と道具

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パキラを盆栽に仕立てるために、高価で専門的な道具を最初から揃える必要はありません。多くは園芸店やホームセンター、100円ショップで手軽に揃えることができます。まずは以下の基本セットを準備し、パキラ盆栽の世界に足を踏み入れてみましょう。
「盆栽」と聞くと、何年も修行が必要な難しい趣味のように感じるかもしれません。しかし、パキラの場合は基本的な観葉植物の植え替えと使う道具はほとんど同じです。まずは気軽に始めてみましょう。
| 道具・材料 | 選び方のポイント |
|---|---|
| パキラの苗 | 100均などで売られている小さな実生株(みしょうかぶ=種から育てた株)が最適です。根元がぷっくりと膨らみやすく、幹も若く柔らかいため、盆栽の形を作りやすい特長があります。 |
| 盆栽鉢 | 盆栽らしさを出す最大のポイントです。通常の鉢と違い、底が浅く、水はけ穴が大きい陶器鉢を選びます。根の成長を制限し、地上部をコンパクトに保つ役割があります。 |
| 鉢底ネット | 盆栽鉢の大きな水はけ穴から土や害虫が侵入するのを防ぐために使います。鉢の穴より少し大きめにカットして使用します。 |
| 用土(土) | 水はけの良さと保水性のバランスが重要です。「市販の盆栽用の土」が最も手軽です。自作する場合は、赤玉土(小粒)をベースに鹿沼土や腐葉土を混ぜたものなどが使われます。 |
| 剪定ばさみ | 枝や葉、そして重要な「根」を切るために使います。植物の細胞を潰さないよう、切れ味の良い清潔なものを選んでください。 |
| 針金(アルミ線) | 幹や枝の形を整える(曲げる)ために使用します。幹を傷つけにくい柔らかいアルミ線がおすすめです。幹の太さに合わせて1.0mm〜2.5mm程度を数種類用意すると便利です。 |
| ピンセット | 植え付け時に根の間に土を押し込んだり、苔を張ったり、細かいゴミを取り除いたりと、盆栽の作業では必須とも言える道具です。 |
| (鉢底石) | 盆栽鉢は浅いため、鉢底石を入れると土の容量が減りすぎることがあります。用土の水はけが良い場合は省略することもあります。 |
この他にも、土を混ぜるための園芸シートや、先端が細いジョウロ(水差し)などがあると作業が一層スムーズになります。
基本的なパキラの仕立て方

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パキラ盆栽の仕立て方の基本は、「植え替え(根の整理)」と「剪定(枝葉の整理)」の2つの重要な作業です。この2つの作業を適切な時期に繰り返し行うことで、コンパクトでありながらも生命感あふれる美しい樹形を作り、維持していきます。
これらの作業に最適な時期は、パキラの生命力が最も高まる成長期、具体的には5月~8月頃です。気温が高いこの時期は植物の回復力が高いため、根や枝を切るという大きなストレスを与えても、すぐに新しい芽や根を伸ばし始めます。
植え替えと根の整理
盆栽鉢は浅く小さいため、2~3年に1回は植え替えが必要です。通常の観葉植物よりも頻度が高いのは、限られたスペースの中ですぐに根が詰まってしまう(根詰まり)ためです。
根詰まりのサイン
- 水やりをしても、水がなかなか土に染み込まない。
- 鉢の底穴から根がはみ出している。
- 以前より葉の色が悪くなったり、成長が鈍くなった。
植え替えの際は、根詰まりを解消し、植物の大きさをコントロールするために根の整理(根切り)を行います。
簡単な流れ
- 鉢からパキラを優しく引き抜きます。根が張って抜けない場合は、鉢の縁を軽く叩くと抜けやすくなります。
- ピンセットや細い棒(竹串など)を使って、古い土を根の間から丁寧にほぐし、全体の1/3から1/2程度落とします。
- 長く伸びすぎた太い根や、黒く変色して腐った根を、清潔な剪定ばさみで切り詰めます。
- 新しい鉢に鉢底ネットを敷き、用土を薄く入れます。
- パキラを配置し、どの角度が正面として最も美しく見えるか(正面決め)を決めます。
- 鉢とパキラの隙間に、ピンセットや棒で土を突き入れながら、根の間にしっかりと新しい土を入れて固定します。
- 最後に鉢底から水が流れ出るまでたっぷり水を与え、植え替え直後のストレスを軽減するため、1週間ほど明るい日陰で管理します。
剪定で樹形を整える
パキラは非常に成長が早いため、放っておくと枝が間延び(徒長)し、盆栽らしいコンパクトな姿から遠ざかってしまいます。美しい樹形を維持し、風通しを良くして病害虫を防ぐためにも、定期的な剪定が欠かせません。
- 成長点のカット(切り戻し):幹や枝の先端にある「成長点」を切り詰めることで、その下の葉の付け根などにある「休眠芽」が目を覚まし、脇から新しい芽が出るのを促します。これにより枝数が増え、密度の高い樹形を作ることができます。
- 葉を落とす(葉刈り):幹に栄養を集中させて太らせたい場合や、樹形をゼロからリセットしたい場合は、思い切って全ての葉を切り落とす「丸坊主」という手法もあります。成長期であれば、数週間で幹のあちこちから新芽が吹いてきますが、株が弱っていると回復できないリスクも伴います。
幹を太らせるには?(犠牲枝のテクニック):パキラの幹を盆栽のように力強く太くするには、「犠牲枝(ぎせいえだ)」というテクニックが使われることがあります。
これは、太らせたい部分よりも下から出る特定の枝をあえて剪定せずに伸ばし続け、その枝に光合成を活発に行わせる方法です。その枝が太る力で、幹本体も太くなります。目的の太さに達したら、伸ばしていた犠牲枝を付け根から切り落とします。
針金を使った幹の曲げ方のコツ

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盆栽の醍醐味(だいごみ)の一つが、針金を使って幹や枝に「曲げ」を加え、自然界の厳しい風雪に耐えた古木のような姿や、芸術的な流れを表現することです。パキラは幹や枝が比較的柔らかいため、初心者でも針金かけに挑戦しやすい植物です。
結論から言うと、購入したばかりの若い株(100均の苗など)ほど、幹が柔らかく思い通りの形に曲げやすいため、針金かけの練習にも最適です。
反対に、何年も育てて木質化(もくしつか)した太い幹は、曲げようとすると「パキッ」と折れてしまう危険性が高いため、無理に曲げるのは避けてください。
作業の適期は、植物が成長し、枝葉が柔らかい成長期の春から初夏(5月~7月頃)です。
簡単な流れ
- 針金の準備:曲げたい幹や枝の太さの、およそ1/3~1/2程度の太さのアルミ線を選びます。アルミ線は柔らかく、幹を傷つけにくいのが特徴です。
- 巻き付け:針金をまず幹の根元や太い枝に数回巻き付けて固定(アンカー)します。そこから、幹に対して45度程度の角度を保ちながら、緩すぎず、きつすぎず、均等な力で巻き付けていきます。
- 曲げる:針金を巻き付けた部分を、両手で優しく支えながら、針金の内側(曲げたい方向の内側)を親指で押すようにして、ゆっくりと曲げていきます。一度に強く曲げず、「ミシミシ」という音がしないか確認しながら、少しずつ理想の形に近づけてください。
- 固定と解除:形が決まったら、そのまま数ヶ月間管理して癖をつけます。
最も重要!針金の「食い込み」に注意!
パキラは特に成長が早いため、針金をかけたまま放置すると、幹が太って針金が食い込んでしまいます。これは見た目が悪いだけでなく、植物の水分や養分が通る道(道管・師管)を圧迫し、最悪の場合そこから先が枯れてしまう原因になります。針金をかけたら、遅くとも2~3ヶ月程度で一度外し、癖がついていなければ再度かけ直す(巻き直す)作業が必要です。
100均パキラでミニ盆栽に挑戦

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「いきなり高価な盆栽鉢や専用の土を買うのはハードルが高い」と感じる方には、まず100円ショップのパキラを使ったミニ盆栽から始めることを強くおすすめします。
100均で販売されているパキラの多くは、前述の通り「実生(みしょう)株」です。挿し木で増やされた株(幹がまっすぐなものが多い)と違い、実生株は種から発芽したため根元がぷっくりと膨らみやすい特徴があります。
この膨らみが、盆栽で重要視される「根張り(ねばり=地表に見える力強い根の広がり)」のような趣を演出し、ミニ盆栽に最適なのです。
100均パキラで作るミニ盆栽の簡単ステップ
- 100均(または園芸店)で、根元が好みの形をしたパキラ(実生株)と、底に穴が開いている小さめの陶器鉢(小皿や豆鉢など)を購入します。
- パキラをビニールポットから丁寧に取り出し、根鉢(根と土が固まったもの)を優しく手でほぐし、古い土を落とします。
- 購入した盆栽鉢の大きさに収まるように、長く伸びすぎた根や太い主根を、清潔なハサミで1/3程度まで切り詰めます。
- 鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、少量の土を入れます。
- パキラを鉢に据え付け、好みの高さで幹の先端を剪定(カット)します。
- 同時に、根を切ったことによる水分の蒸散バランスを取るため、葉も数枚残す程度に減らすと、盆栽らしい雰囲気が出ると同時に、植え替え後の成功率も上がります。
- 最後に鉢底から水が流れ出るまでたっぷり水を与え、1週間ほどは直射日光を避けた明るい日陰で管理します。
若い株は幹が非常に柔らかいため、前述の針金かけにも最適です。手軽な材料で、世界に一つだけのオリジナル盆栽作りをぜひ楽しんでみてください。
苔や石を使った寄せ植えのアイデア
パキラを盆栽鉢に植え替えるだけでも雰囲気は一変しますが、さらに鉢の表面(土の上)を装飾することで、「鉢の中に小さな自然の風景を作る(盆景)」という、盆栽の芸術性をさらに高めることができます。
これは、見た目を美しくするだけでなく、土の急激な乾燥を防いだり、水やりによる土の跳ね返りを防いだりする実用的な効果も期待できます。
苔(コケ)を張る
土の表面に緑の苔を張るだけで、一気に「和」の風情と、しっとりとした時間の経過が感じられます。園芸店などでシート状の「ヤマゴケ」や「ハイゴケ」が販売されています。
ただし、苔は乾燥に弱いため、土の表面が乾いていても、苔自体は湿っている必要があるなど、パキラ本体とは別の管理が少し必要になります。土への水やりとは別に、苔の表面には毎日霧吹きで水を与える(葉水)と良いでしょう。
化粧砂や小石を敷く
苔の管理が難しい場合や、よりモダンでクリーンな印象に仕上げたい場合は、化粧砂(けしょうずな)もおすすめです。「矢作砂(やはぎすな)」のような粗めの砂や、純白の「白玉石」、あるいは五色の砂利などを敷き詰めると、雰囲気が引き締まります。
ただし、化粧砂は土の乾き具合が見えにくくなるというデメリットもあるため、水やりのタイミングは鉢の重さや指で土を触るなど、より慎重に判断する必要があります。
ミニチュアや他の植物との寄せ植え
小さな動物、人物、あるいは灯籠(とうろう)や橋などのミニチュア(添景=てんけい)を置くことで、鉢の中に物語性が生まれます。また、パキラの生育環境(乾燥気味を好む)と似ている、セダムのような乾燥に強い多肉植物を根元に少しだけ寄せ植えするのも楽しいアイデアです。
パキラ盆栽を長く楽しむ管理方法
参考
- 盆栽風パキラの基本的な育て方
- 根腐れさせない水やりの頻度
- 失敗しないパキラの冬越しの方法
- 剪定した枝で挿し木に挑戦
- 水耕栽培で気軽に楽しむパキラ
- パキラ盆栽で暮らしに彩りを
盆栽風パキラの基本的な育て方
パキラ盆栽の基本的な育て方は、通常の観葉植物としてのパキラと大きくは変わりません。しかし、前述の通り、浅く土の量が少ない盆栽鉢で育てるため、水や肥料の管理において、より繊細な注意が求められる点もあります。
盆栽管理で最も重要なのは、「日当たり」と「風通し」、そして「水やり」の3点です。
最適な置き場所:日当たりと風通し
パキラは本来、日光を好む植物ですが、夏の強すぎる直射日光は「葉焼け」(葉が白や茶色に変色し、光合成ができなくなること)の原因となります。そのため、室内で管理する場合、レースのカーテン越しのような、直射日光の当たらない明るい場所(散光)が最適です。
また、風通しも非常に重要です。空気がよどんだ場所に置くと、鉢土が常に湿った状態になり根腐れを招いたり、枝が間延び(徒長)したり、病害虫が発生しやすくなったりします。空気がある程度循環する、リビングの中心部などが理想的です。
パキラの耐陰性について
パキラはある程度の耐陰性(日陰に耐える力)を持っていますが、これは「暗くても平気」という意味ではありません。
長期間暗い場所に置くと、葉の色が薄くなったり、新芽が出なくなったりと元気がなくなります。もし明るい場所を確保できない場合は、週に数回でも日光浴をさせてあげましょう。
肥料の与え方
盆栽鉢は土の量が少なく、水やりによって養分が流れ出しやすいため、適切な肥料やりが必要です。
パキラの成長期にあたる春から秋(5月~9月頃)に、観葉植物用の薄めた液体肥料を10日~2週間に1回程度与えるか、あるいは緩効性(ゆっくり効くタイプ)の置き肥を鉢の隅に少量置きます。冬場は成長が止まるため、肥料は一切与えないでください。
根腐れさせない水やりの頻度
パキラ盆栽の管理で、初心者が最も失敗しやすいのが水やりです。パキラを枯らす原因の第一位は、間違いなく「水のやりすぎによる根腐れ」です。盆栽鉢は浅いため土の量は少ないですが、その分、水はけが悪いと根がすぐに酸欠になってしまいます。
結論として、水やりの鉄則は「土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出るまでたっぷりと与える」ことです。パキラは幹や根に水分を蓄えることができる乾燥に強い植物なので、土が常にジメジメと湿っている状態を極端に嫌います。
水やりのタイミングは、土の表面を指で触ってみて、白っぽく乾いていること(あるいは土の中に指を入れてみて湿り気を感じないこと)を確認してからにしましょう。鉢を持ち上げて、水やり直後より明らかに軽くなっていることを確認するのも良い方法です。
与える際は、鉢底の穴から水が勢いよく流れ出るまでたっぷりと与えます。これは、土の中の古い空気を押し出し、新鮮な空気を根に届ける重要な役割も兼ねています。
受け皿の水は「即」捨てる!
水やりの後、受け皿に溜まった水は必ずすぐに捨ててください。これを溜めたままにしておくと、鉢の中が常に湿った状態になり、根が呼吸できなくなります。これが、パキラが枯れる最大の原因である「根腐れ」を直接引き起こします。
葉水(はみず)のすすめ
土への水やりとは別に、霧吹きで葉や幹に水を与える「葉水」も毎日、あるいは定期的に行うことを強くおすすめします。
葉水は植物の乾燥を防ぎ、いきいきとした葉を保つだけでなく、パキラに非常に発生しやすいハダニなどの害虫予防に絶大な効果を発揮します。ハダニは高温乾燥を好み、水を嫌うため、特に葉の裏側にもしっかり霧吹きすることが重要です。
失敗しないパキラの冬越しの方法

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熱帯アメリカ原産のパキラは、寒さに非常に弱い植物です。日本の冬はパキラにとって非常に過酷な環境であり、盆栽として土の量が少なく、根が外気に近い浅い鉢で育てている場合、その影響はさらに大きくなります。
パキラが元気に冬を越すためのボーダーラインは、多くの園芸書などで気温5℃以上が目安とされています。気温がこれを下回る環境に長時間置かれると、葉を落とし、株が弱り、最悪の場合は枯れてしまうため、冬場の管理には細心の注意が必要です。
冬越しの管理:3大ポイント
- 置き場所:必ず室内に取り込みます。暖房の風が直接当たる場所は、極度の乾燥を招くため避けてください。日中はできるだけ窓際で日光に当て、明るく暖かい場所で管理します。
- 水やり(最重要):冬はパキラの成長が緩やかになる(または休眠する)ため、水をほとんど必要としません。水やりの頻度を大幅に減らし、土が完全に乾いてからさらに数日後に、気温の高い日中を選んで与える程度にします。「乾燥気味」に管理するのが最大のコツです。
- 寒暖差を避ける:下記の注意点を参照してください。
夜間の「窓際の冷気」に注意
冬の窓際は、日中は日光で暖かくても、夜間は外の冷気(コールドドラフト)で急激に温度が下がります。この日中と夜間の激しい温度差は、植物にとって大きなストレスとなります。夜間だけは窓から少し離れた部屋の中央などに移動させるなど、寒暖差で株が弱らないよう工夫しましょう。
剪定した枝で挿し木に挑戦
パキラは非常に生命力が強く、盆栽の仕立てで剪定で切り落とした枝からも、驚くほど簡単に増やすことができます。「挿し木」と呼ばれるこの方法は、盆栽作りで出た枝を無駄なく活用し、全く同じ性質を持つクローン株を増やせる素晴らしいテクニックです。
挿し木で増やした株を、また新たなミニ盆栽の素材として育てるのも大きな楽しみの一つです。(参考:NHK みんなの趣味の園芸「挿し木」)
挿し木に最適な時期は、やはり植物のエネルギーが最も高まる成長期、5月~9月頃です。気温と湿度が高いこの時期は、パキラの発根(根を出すこと)が非常に活発で、成功率が格段に上がります。
冬の挿し木は避けましょう:逆に、気温が下がる冬はパキラが休眠期に入るため、挿し木をしてもほとんど発根しません。枝がそのまま枯れてしまう可能性が非常に高いため、この時期の作業は避けてください。
挿し木の手順と成功のコツ
挿し木の成功率を上げるには、いくつかの重要なポイントがあります。以下の手順を参考に挑戦してみてください。
手順
- 挿し穂(さしほ)の準備:剪定した枝の中から、病害虫がなく健康で元気な枝を選び、10~15cmほどの長さにカットします。このとき、切り口はカッターや清潔なハサミで斜めに鋭くカットします。切り口の断面積を広げることで、吸水面が広くなり発根率が上がります。
- 葉の整理(蒸散の抑制):挿し木が失敗する最大の原因は、根がない状態で葉から水分が失われ(蒸散)、乾燥してしまうことです。これを防ぐため、枝についている葉は先端の2~3枚だけを残し、他はすべて付け根から切り落とします。さらに、残した葉も、ハサミで半分ほどの大きさにカットしてください。これにより、蒸散を最小限に抑え、枝が持つ水分と体力を発根に集中させることができます。
- 水揚げと発根促進:カットした挿し穂を、清潔な水を入れたコップなどに1~2時間ほど浸け、「水揚げ」をします。これにより、枝が十分に水を吸い上げます。さらに成功率を上げたい場合は、水揚げの後、切り口に市販の「発根促進剤」(ルートンなどの粉末)を薄くまぶすことを強くおすすめします。
- 清潔な用土への挿入:挿し木で最も重要なのが、雑菌のない「清潔な土」を使うことです。
- 挿し木後の管理:作業後は、鉢底から水が流れるまでたっぷり水を与えます。その後は、直射日光が当たらない明るい日陰で管理します。発根するまでの間は、絶対に土を乾燥させないことが成功の鍵です。土の表面が乾きかけたらすぐに水を与え、高い湿度を保つようにしてください。
挿し木に適した用土
挿し木には、肥料分が含まれておらず、水はけと通気性に優れた清潔な土(無菌の土)を使います。古い土や庭の土を再利用すると、雑菌で切り口が腐る原因となるため厳禁です。
・市販の「挿し木・種まき用の土」
・赤玉土(小粒)単体
・鹿沼土(小粒)単体
・バーミキュライト
用意した土をポットや鉢に入れ、あらかじめ水で湿らせておきます。指や細い棒で穴を開け、挿し穂の切り口を傷めないように優しく挿し、周りの土を軽く押さえて固定します。
「水挿し」という選択肢
土に挿す代わりに、コップなどに水を入れたまま発根させる「水挿し」も、パキラは非常に簡単に成功する方法です。
メリットは、発根する様子が目に見える楽しさと、土を準備する手間がないことです。デメリットは、水の中で出た根(水中根)は、土の中の環境(酸素の少なさや抵抗)に適応した根(土中根)とは性質が異なり、非常に繊細で脆いことです。
水挿しで発根させた後、土に植え替える(土上げ)際には、このデリケートな根を折らないよう細心の注意が必要です。植え替え直後は、根が土の環境に慣れるまでストレスがかかるため、一時的に元気がなくなることもあります。
水挿しの管理ポイント:水挿しを行う場合、特に夏場は水が腐りやすくなります。最低でも2~3日に一度、できれば毎日、新鮮な水に取り替えてください。水を清潔に保つことが、切り口が腐るのを防ぎ、発根を促す最大のコツです。
水耕栽培で気軽に楽しむパキラ

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盆栽の仕立てで剪定した枝を無駄なく活用する、もう一つの楽しい方法が、土を使わずに水だけでパキラを育てる「水耕栽培(ハイドロカルチャー)」です。土を一切使わないため、コバエなどの不快な虫が湧きにくく非常に清潔なのが最大のメリットとされています。
キッチンカウンターや食卓、寝室のサイドテーブルなど、衛生面から土を持ち込みたくない場所にも安心して飾ることができます。(参考:水耕栽培の始め方 Plantia by HYPONeX)
また、透明なガラス容器などを使えば、白い根が水の中で徐々に伸びていく様子を視覚的に楽しむことができます。これは、盆栽とはまた違ったパキラの生命力を感じる魅力であり、同時に根の健康状態(腐っていないか、新しい根が出ているか)を一目でチェックできるという利点にもなります。
水耕栽培の始め方(2つの方法)
パキラの水耕栽培を始めるには、大きく分けて2つの方法があります。
1.剪定した枝から発根させる(最も簡単):これが一番手軽で簡単な方法です。前述の「挿し木」の要領で、水に挿して発根させます。
- 剪定した枝(10~15cm程度)の切り口を、清潔なカッターなどで斜めにカットします。
- 先端の葉を2~3枚だけ残し、他の葉はすべて付け根から取り除きます。
- 水を入れたコップや瓶に枝を挿します。発根するまでは水が腐りやすいため、できれば毎日、最低でも2~3日に一度は新鮮な水に取り替えてください。
- 数週間すると、切り口や幹の途中から白く新しい根が伸びてきます。
2.土に植わった株を移行させる:すでに土に植わっている小さなパキラ(100均の苗など)を、水耕栽培に移行させる方法です。ただし、土の中で育った根(土中根)と、水の中で育つ根(水中根)は性質が少し異なるため、作業には注意が必要です。
- パキラを鉢から優しく引き抜き、根鉢(根と土)を崩します。
- バケツなどに溜めた水の中で根を優しく揺すり、土を完全に洗い流します。この時、根を傷つけないよう、決して強くこすらないでください。
- 土が綺麗に落ちたら、長く伸びすぎた根や黒ずんで傷んだ根を、清潔なハサミで切り詰めます。
- 根を容器に入れ、新しい水を注ぎます。
土からの移行はリスクも伴います
土で育った根は、水だけの環境にうまく適応できず、そのまま腐ってしまうことがあります。移行直後は非常にデリケートなため、水は2~3日に一度は必ず交換し、水中での環境に適した「新しい根(水中根)」が伸びてくるのを辛抱強く待ちます。移行中に古い根がブヨブヨと腐ってきた場合は、その都度取り除いて清潔な状態を保ってください。
水耕栽培の管理と注意点
無事に根が伸びて安定してきた後の管理ポイントは、「水の交換」と「栄養補給」です。
剪定した枝を水に挿しておくだけで根が出てくるので、本当に簡単です。水の腐敗を防ぐために、市販の「根腐れ防止剤(ゼオライトなど)」を容器の底に少し入れておくことを強くおすすめします。ゼオライトには水を浄化し、アンモニアなどを吸着する働きがあるんですよ。
1.水の交換:植物は根からも酸素を吸収するため、水が古くなると酸欠になり根腐れの原因となります。特に気温の高い夏場は水が腐敗しやすいため、3日~1週間に一度、成長が緩やかな冬場でも2週間に一度程度は新鮮な水に取り替えてください。水を替える際は、容器の内側のぬめりも一緒に洗い流すと、より清潔な状態を保てます。
2.栄養補給(液体肥料):土と違い、水だけでは植物が成長するための栄養分(窒素・リン酸・カリなど)が全く含まれていません。そのため、水耕栽培で元気に育て続けるには、必ず「液体肥料」を与える必要があります。
パキラの成長期である春から秋(5月~9月)にかけて、水耕栽培用(ハイドロカルチャー用)として販売されている液体肥料を、製品のパッケージに記載されている正しい希釈倍率で水に加えます。通常の土用の液肥は濃度が濃すぎることがあるため、専用品を選ぶと安心です。
冬場は成長が止まるため、肥料は与えないでください。
パキラの盆栽で暮らしに彩りを
チェックリスト
- パキラは観葉植物としてだけでなく盆栽としても楽しめる
- パキラ盆栽の仕立ては「剪定」と「植え替え」が基本
- 100均の実生株は根元が太りやすくミニ盆栽に最適
- 盆栽作りにはパキラの苗、盆栽鉢、土、ハサミなどが必要
- 幹や枝の曲げ方は針金(アルミ線)を使って行う
- 針金は成長期にかけ、2~3ヶ月で食い込む前に外す
- 苔や化粧砂で鉢の表面を装飾すると盆栽らしさが向上する
- 基本的な育て方は「直射日光の当たらない明るい場所」に置くこと
- 風通しを良くすると徒長や病害虫の予防になる
- 水やりは「土の表面が乾いたら、鉢底から流れるまでたっぷり」が原則
- 盆栽鉢は浅いため根腐れしやすく、受け皿の水は必ず捨てる
- 葉水は乾燥やハダニの予防に効果的
- パキラは寒さに弱く、冬越しは室内で5℃以上を保つ
- 冬は水やりを控えめにし「乾燥気味」に管理する
- 剪定した枝は挿し木や水耕栽培で増やすことができる